「マイ・インターン」感想 人はいつだって誰かに肯定されたい
アン・ハサウェイが好きだ。
定番は「プラダを着た悪魔」なのかもしれないが、「オーシャンズ8」もすごく好きだった。「オーシャンズ8」は主要女性全員漏れなく好きだけれど。
ただ、洋画については、オタク特有の好きな役者を追う、みたいな見方はなぜかあまりしていなくて、マイ・インターンもアマプラにあったから見たいなと思いながら、優先順位はそこまで高くなかった。先にオーシャンズシリーズ制覇したかったし。
その優先順位をすっ飛ばして急に見ることになったのは、仕事7年目にして最大の怒りを職場で抱いたこと(それ以来わたしのデスクには退職願が忍ばされている)と、「マイ・インターン」に対する誤解からだった。
熱心な映画ウォッチャーでもないわたしが映画を見ようとするとき、何を見るかの情報源は主にネットだ。
ファッションや雰囲気がかわいい映画を見たかったら、「映画 かわいい」で検索するし、特にこういうものが見たいという希望がないときは単純に「映画 オススメ」で検索する。
「マイ・インターン」もそうやって出てきたまとめサイトでよくオススメされる映画の一つで、やり手の経営者(アン・ハサウェイ)のもとにシニア・インターン(ロバート・デ・ニーロ)がやってくる、というざっくりしたあらすじしか知らなかった。そこから勝手に、価値観の合わない年上の新人に振り回されるが奮闘するアン・ハサウェイという図を想像して、勝手に勇気づけられようとしたのだ。
結論からいうと、わたしの目論見は予想とは違う形で叶った。
どうしようもない仕事と上司の無茶ぶりにイライラしてたどり着いた映画に出てきたシニア・インターン、ベンは、気さくだけれど謙虚で柔軟、視野が広くてよく気が付き、新しいことも自ら学び、自分より若い人にも尊敬をもって接するうえに、ユーモアと思いきりの良さもある紳士。こんな70歳いる!!!???に満ち満ちた出来た人物だった。こんな70歳と言ったが、こんな人間いる!?の領域である。いるんでしょう、この世のどこかには。弊社にはいません。
そんなベンなので、社内でもすぐに打ち解け、最初は彼を敬遠していたアン・ハサウェイ演じるジュールズからも信頼を寄せられ、みんなの良き相談役、友人となって、会社の大小さまざまな問題から、同僚の恋路、ジュールズのプライベートまであらゆることを解決していく。
といっても、彼がドラマの刑事のように東奔西走して(一か所だけ東奔西走するシーンもあった。すごく楽しくて大好きなシーン)ひとつひとつに手を貸すわけではない。ほとんどの場合、彼は彼にできるごく小さなことをしているだけ。意見を求められれば助言し、会社の行き場のない物が積み上げられ続ける机を片付け、人の見られたくない事情を目撃してしまっても直接はつつかない。彼自身が行っているのは、些細なことで、問題を抱えた周囲の人間は彼と話しながら自ら考え行動して解決していくのである。何でも相談できる人材も稀だが、それ以上にほどほどの干渉ができる人間というのは希少だ。たいていの人はやりすぎるか、やらなさすぎる。
なぜか彼には言えてしまうし、彼と話していると自分のやるべきこと、やりたいことが見えてくる。そういう存在なのだ。
実は彼はあくまで、個々の心にあるものを気づかせてくれるだけで、答えは最初から本人たちの中に決まっている。ただその答えに自信を持たせて背中を押してくれるのが彼なのだと思う。
何かに迷ったとき、よく「心に○○を住まわせる」という処世術を聞く。○○は肯定力の高いギャルだったり、物事をズバッと言い切ってくれるマツコ・デラックスだったりと人によってさまざまだ。ちなみにわたしは、よく心の大阪のおばちゃんが「いい、いい。やってまい!」と威勢よく言うから思いきりだけはいい。
何かを決めなきゃいけないとき、人は誰かに肯定されたいのだ。
「マイ・インターン」はわたしの選択を肯定する、わたしがわたしであることを肯定してくれる物語でもある。
年齢層の違う人とのすれ違いに奮闘する物語と勘違いして見始めた映画だったが、結果的に、自己の肯定を得たわたしは、まあ、仕方ないから仕事頑張りますか!となんとなく元気になってしまった。
弊社にベンはいないけれど、心に住まわせることにして。
心のなかのベンは、きっと大阪のおばちゃんともうまくやるだろう。